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東京地方裁判所 平成2年(行ウ)65号 判決 1992年6月25日

東京都港区西新橋三丁目八番三号ランデイツク新橋ビル

原告

株式会社ジャコス

右代表者代表取締役

栗山民毅

右訴訟代理人弁護士

槇枝一臣

高橋一嘉

篠宮晃

東京都港区芝五丁目八番一号

被告

芝税務署長 淡島章一

右指定代理人

若狭勝

津田真美

澤田利成

野末英男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の法人税について、被告が昭和六三年四月二八日付けでした更正(異議決定によって減額された後の部分)のうち所得金額二億七五三二万九一四四円を超える部分並びに過少申告加算税(異議決定によって減額された後の部分)及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の法人税について、被告が昭和六三年四月二八日付けで更正と併せて過少申告加算税及び重加算税の賦課決定をしたのに対し、原告が適法な異議申立て及び審査請求を経て取消を請求した訴えである。被告のした更正の内容は別表一記載のとおりであるが、原告は、そのうち<1>ないし<5>、<8>及び<9>は争わない。

争いのある<6>の有価証券売買益除外の加算項目の内容は、新日本証券株式会社本店の栗山民毅(原告代表者)名義の口座における差引株式売買益八〇四一万七四二九円(内訳は別表二のとおり)と日興証券株式会社銀座支店の同じ名義の口座における差引株式売買損二四万三九一八円(内訳は別表三のとおり)の差額であるが、原告は、そのうち昭和六二年三月二日新日本証券株式会社本店で売却されたNTT株式八三株の売却益が原告に属するとすることを争い(原告の代表者である栗山民毅に属するとする。)、その他争わない。

二  したがって、本件の争点は、右売却されたNTT株式(以下「本件株式」という。)が原告に属するものであったかどうかという点であって、これに伴い、原告は、重加算税について、原告に仮装隠蔽の意図はなかったとして争っている。

三  右争点に関し、次の事実は当事者間に争いがない。

1  本件株式は、別表四記載の取得年月日に、そこに記載の証券会社を通して、そこに記載の株式数、取得金額及び取得名義で取得されたNTT株式合計五八九株(以下「五八九株」という。)の一部である。

2  その取得資金は、原告が昭和六二年二月九日に当時の三井銀行三田支店及び住友銀行本店第二営業部から各五億円ずつ借り入れたものを充てた。

3  五八九条株のうち江頭毅名義で取得した七三株中二三株については、原告は昭和六二年二月一二日に江頭からその取得価額に相当する金額三六九六万六〇六〇円を送金され、同月一八日これを江頭に送付したので、原告に属するものではない。

4  五八九株のうち一〇〇株については、昭和六二年二月一八日及び同月二六日に新日本証券本店においてそれぞれ五〇株ずつ栗山民毅名義への書換え請求の代行依頼がされている。

5  原告は、当時の三井銀行三田支店に、前記五億円の借入金の担保として五八九株のうち二八三株を差し入れたが、このうちの八三株が売却された本件株式である。

6  本件株式の売却代金二億二一二四万八八四〇円は、昭和六二年三月五日右売却を代行した新日本証券の担当者笹川康彦が一旦現金でこれを受領し、それを栗山民毅名義をもって原告の当座預金に入金した。

7  原告は、右入金について、同月七日付けで会計帳簿上原告が栗山民毅に貸し付けていた金員の返済であるとの処理をし、同月二九日付けで会計帳簿上五八九株中一〇〇株分の取得価額に相当する額一億六九七九万四六五四円を原告が栗山民毅に貸し付けたという処理をした。

8  原告は、右栗山民毅に対し行ったとする貸付につき金銭消費貸借契約書を作成していないし、事前に取締役会の承認を得、その旨の議事録を作成することをしていない。

四  争点についての当事者の主張は、次のとおりである。

1  被告

(一) 五八九株中江頭毅が現実に出損して送付を受けた二三株を除いた分は、原告がその借り受けた金銭によって購入しており、その中の本件株式も、原告が担保として銀行に差し入れた分であって、その売却も新日本証券の原告名義の口座で行われ、その代金も原告の口座に振り込まれているのであるから、本件株式は原告に帰属するものである。

(二) 新日本証券の笹川康彦が、本件株式売却代金を現金で、栗山民毅名義で原告の預金口座に振り込んだのは、このような外観を作るためのもので、形式的な処理に過ぎず、右代金が一旦は栗山に支払われたとみることはできない。原告の右代金についての栗山への貸付の経理処理も、その帳簿への記載は本件株式が売却された日以後にされ、貸付に対する返済の処理の記載は、貸付の日以前にされているから、右記載は本件株式の売却益が栗山に帰属するよう仮装するためにされたものである。

2  原告

(一) 原告、栗山民毅及び江頭毅は、NTT株式を共同で購入するためプロジェクトを組織し、購入資金の銀行借入、証券会社に対する買付け注文等は宮永鐡郎(原告の総務部長)に担当させることとした。購入資金の借入につき、栗山もその個人資産を担保提供している。これにより五八九株が購入されたので、直ちに右三者において各取得株数の配分を協議し、江頭二三株、栗山一〇〇株、残りを原告とすることとした。江頭からは右二三株の代金が原告に支払われるとともに、原告と栗山の精算金額も宮永が計算して両者に示し、その了承を得た。そこで一〇〇株分について栗山への名義書換えの請求をした。

(二) 栗山は、昭和六二年二月二七日の時点で個人分を売却することとしたが、当時その取得分は名義書換え中で手元になかったため、原告が三井銀行に担保として差し入れている分中八三株を借用することとして引き出して一時代用し、これによって栗山名義の口座で売り付けの約定が成立した。右代用分に充てるため、書換え請求中の一〇〇株中八三株は、原告名義に書き換える請求をした。なお、新日本証券本店では、本件株式を原告名義の口座に入品処理したが、これは誤った事務処理であって、既に栗山名義の口座で売り付けの約定が成立していることと辻褄を合わせるため、原告名義の口座から栗山名義の口座に入品の処理をしたものであり、原告の関知するところではない。

(三) 消費貸借契約は口頭によることもできるから、原告が、事前に取締役会議事録や金銭消費貸借契約書を作成しなかったことをもって、貸借関係がないことの証拠とすることはできない。右貸付については昭和六三年一月二五日開催の取締役会において追認されたし、貸付利息の授受もされた。また、原告は、右貸付に対する経理処理も正確に行った。それが、本件株式の売却日以降に行われたのは、たまたま原告の経理処理が遅れたことによるに過ぎない。

(四) 仮に当初の五六六株は原告に属するものとしても、うち一〇〇株は二回に分けて栗山への名義書換え請求の代行依頼がされているから、その時点において右一〇〇株は栗山に帰属した。最初の依頼期日である昭和六二年二月一八日における本件株式の東京証券取引所における終値は一九五万円であり、次の依頼期日におけるそれは二五二万円であるから、これから取得価額をを控除した譲渡益は、五三七〇円五三四六円となり、原告は、その限度で利益を受けた。

第三争点についての判断

一  通常購入した株式の帰属についての判断には、誰の名義で購入されたかという点も重要な事実であるが、本件においては、二三株を取得した江頭毅名義で七三株が購入され、一〇〇株購入したと主張されている栗山民毅名義では二株しか購入されていないから、誰の名前で購入したかは本件ではその帰属について関係がないものと認められ、この点は、特に考慮する必要がない。

二  そうすると、本件においては、当事者間に争いのない事実のみをみても、五八九株の購入資金は、原告が銀行で借り受けた一〇億円が充てられており(原告に、栗山が個人の資産も担保提供しているのは、借り受ける資金が栗山個人分の株式取得にも充てられることを銀行が承知し、個人の資産も担保提供すべき旨を求められたことによると主張するが、栗山は原告の代表者であって、会社に資金融通をする際、その代表者の個人資産の担保提供を受けたり、その連帯保証をとったりすることは、通常みられる銀行業務であって、本件がそれと異なるとする事情は窺えないから、右担保提供の事実をもって銀行が、栗山が資金を使用することを承知していたと認めるには足りない。)、売却された本件株式は、原告が銀行に担保として差し入れた分の一部であって、栗山が名義の書換えを請求している分ではなく、その売却代金も原告の当座預金に振り込まれたというのであって、これらの事実からしても、本件株式は原告に帰属するものであるとの推認が充分可能である。

三  原告は、一〇〇株分は、栗山が原告からその取得に係る金額の貸付を受けて購入したものであると主張する。しかし、栗山は、原告の代表者であり、証人宮永鐡郎の証言によれば、原告の株式の六〇パーセントを所有していて、原告をその意のままに操れる立場にあったと認められるのである。したがって、原告が株式の購入を決定するとか、他に資金を融通するとかの意思決定や行動は、現実には栗山がこれを行っていることとなる(宮永鐡郎は、原告の総務部長であって、栗山の使者としての立場にあるに過ぎない。)から、栗山が、原告の資金によって原告とともに自らも株式を購入するというような場合には、原告と栗山とがそれぞれ別個にその独自の利益に基づいて取引を行うものであることについて疑問の残らないような明確な契約書面類の作成や帳簿処理が事前或いは適時にされていない限り、栗山がその恣意で、都合の良いように原告名義と栗山名義を使い分けていると他から指摘されても反駁が難しい関係にあるものといわなければならないのである。本件においては、原告の主張によっても、栗山は、その懐からは一銭の出費もしていない。江頭は、二三株分の取得価額を現実に支払ってその株式を取得しているから、栗山の場合と同一に論ずることはできないのである。しかも、原告は、栗山との間の貸借について契約書面を作成していないし、帳簿処理も、本件株式を売却し、その代金が原告の口座に入金した日の二日後になって始めて栗山からの貸金の返済の記帳し、その二二日後になって始めてその取得価額に相当する額を原告が栗山に貸し付けたとの帳簿処理をしているのである。それに加え、右帳簿処理は、返済額が貸付額より五〇〇〇万円余多いということになっている。証人宮永鐡郎の証言によれば、原告は、右以前に栗山に貸付がありその分を含めての返済であるというのであるが、その証言もあいまいであり、栗山と原告との決済関係がどれ程正確なものであったか疑問であるといわなければならない。宮永鐡郎は、栗山の使用人的な立場にある者であって、その証言を直ちに信用することはできないし、甲第四号証のメモも、制度的に定められた営業報告書や、業務命令書の類に当たるべくもない不正規な連絡帳であって、その記載内容も網羅的ではなく、精粗があり、問題の二月一三日の社長個人分の株式取得価額の社長貸付額についての記載も、他とは記載の形式も異なり、その日の記載について目を通した後に栗山が記載するとする社長の指示の記載の後に頁を異にして記載されていること等からすれば、これをもって、原告の主張を裏付けるに足りる記録とは到底認めえないのである。以上のような状況にあってみれば、原告或いは栗山は、原告の出費によって買い受けた五六六株について、そのうち一〇〇株は栗山が買い受けたことにすることとし、その購入資金は栗山が原告から借り受けたこととして、それに合うような帳簿操作を事後的に担当者に命じて行わせたというのと何ら異なることがないのであって、このような都合のよい主張が、何ら確たる裏付けもないのにその額面どおり通用するような取引社会は存在しないというべきである。

四  右のとおり、そもそも、栗山名義への書換え請求がされた一〇〇株についても、それが真実栗山に属するとは認め難いといわざるを得ないのであるが、仮に、この点を原告主張どおりに認めたとしても、本件で売却されたNTT株式は、原告が担保に差し入れたその所有に属するものなのであって、栗山が名義書換えを請求した株式ではない。原告は、栗山が、原告から八三株を借り受けて売却したと主張するが、そのような貸借契約が存在したことについて、これに副う証人宮永の証言は前記のとおり直ちに信用できるものではなく、他にそのような契約のあったことを認めるべき証拠はない。証人笹川康彦は、宮永に、そのような株式の借受けによる売却を示唆したことはない旨明確に否定するところであり、乙第七号証に添付の株式委託買付注文伝票や精算請求表、入出金連絡表にみられる依頼者名義や日付の混乱も、右乙第七号証の笹川康彦の供述記載と証人笹川康彦の証言とを併せれば、当初原告によるNTT株式の売付注文を受けてそのような買付けを成立させたところ、その後になって栗山の意を受けた宮永から、その売付けを栗山個人の依頼に基づく、その株式の売付けに変更せよとの連絡を受け、これに副う操作をした結果生じたものと認めるのが相当である。証券会社の営業社員が、二億円にも上る株式売却代金をわざわざ現金化して銀行に持参して振り込む等ということをその自発的意思で行うはずはなく、笹川がそのような操作をしたについても、宮川の指示があったと見るのが相当であって、これらの操作は、八三株の売買を、原告ではなく、栗山によるものと外観上みせかけさせるためのものであったとみる他はない。以上のとおり、これらの帳票類や、売却代金の原告口座への振込が栗山名義でされていることをもって、原告の主張を裏付けるものともいえないのである。

五  原告は、予備的に、栗山名義に書換え請求をした株式はその請求をした日に原告が栗山に譲渡したものであるとの主張をするが、本件で問題となっているのは八三株の売却益の帰属であって、右四のとおり、栗山名義への書換え請求をした株式は、八三株とは別のものなのであるから、原告の主張はそれ自体失当である。

六  以上に認定したところによれば、原告は、その所有に属する本件株式を売却して利益をあげながら、これを栗山に属するものとして法人税の課税を免れる目的で、帳簿操作等を行ってこれを仮装し隠蔽しようとしたものと認められるから、被告による本件の重加算税の賦課決定は適法である。

第四結論

以上によれば、本件株式は原告に帰属するものと認めるべきであるから、被告のした本件の各処分はいずれも適法であり、原告の請求はこれを棄却すべきである。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 榮晴彦 裁判官 長屋文裕)

別表一(本件更正に係る差引所得金額の計算表)

<省略>

別表二(新日本証券株式会社本店の栗山民毅名義口座)

<省略>

別表三(日興證券株式会社銀座支店の栗山民毅名義口座)

<省略>

別表四(NTT株式の買付状況)

<省略>

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